東北JAZZ遍路第４夜Ｂ面

クインを後にして釜石の市街に入る。ホテルにチェックインして夕飯。竹寿司という落ち着いた雰囲気の寿司屋に入った。おまかせで地のものを中心に握ってもらう。さすがに三陸は魚が旨い。メカジキの大トロの旨さには驚いた。話しっぷりが知的な親方はJAZZも聞き、これから向かうタウンホールにもよく行くという。竹寿司には大満足。ジャズ喫茶はいかに。

小さな音でエルヴィン・ジョーンズ　　タウンホール（釜石）

階段を上った２階のドアを開けると、落ち着いたブラウン系でまとめられたきれいな店内。マスターも若く、いままでの癖の強いジャズ喫茶とは雰囲気が違う。これはあまり期待できないかなという印象だ。カウンターに座りジントニックとラムコーク。

しかし、ジャズ喫茶巡りをしていると知るや、マスターの口から岩手ジャズ喫茶界の面白話が次々にあふれ出した。「岩手のジャズ喫茶のおやじ達はみんな強烈ですからね。わたしなんか、いつまでたっても若手あつかいですから」
クインの佐々木さんが肝臓を悪くして死にかけながら旅に出た話、ベイシーの菅原さんに下手に新譜の感想を話せば怖い目にあうという話など、とても詳しくは書けないような爆裂面白話が続く。マスターは日頃の鬱憤を晴らすかのごとく、レコードをかけ替えるのも忘れ話し続けた。「明日、ジョニーの本店に行くんですけど、奥さんは普通の人なんですか」と聞くと「うん、普通だよ。・・・・でもジョニーさんと結婚するんだからやっぱり変わってるなあ」「ジョニーさん、日本のジャズばっかり聴いててよく飽きないよな」と言いたい放題。ベイシーで行われるライブ（注１）の凄さも教えられた。「エルヴィンはいくつになっても衰えないねえ。一緒に来てたマッコイ・タイナーは楽屋できれいなネーチャンとずっといちゃついてたよ」

エルヴィンのことを語り合ったあと「じゃあエルヴィン、なにか聞きましょうよ」とマスターに言うと「この店、夜は近所に文句いわれるんで大きな音出せないんですよ」と申し訳なさそうに選んでくれたのはコルトレーン。黄金のカルテットの名盤「トランジション」（注２）だ。小さな音で聴くエルヴィンのドラムス。「竹寿司は釜石じゃあ一番だね」マスターが、ぼそりとつぶやいた。（byテツ）

注）
（１）	ベイシーで行われるライブ：ベイシーでは年数回ライブがあるが、音のよさで有名な場所だけにライブの音響も抜群だという。ナベサダ、日野晧正、エルヴィンなど有名ミュージシャンが演奏している。
（２）	トランジション：コルトレーンがモードからフリーに突入する直前に録音されたハイ･テンションなアルバム（1965年）